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彼らの色


妖の番人、白蓮銀の昔話をBGMに番人一行は現代の街を行く。
記憶にない場所に密集して生える高い建物群の間を通り抜けながら、巡は急に懐かしくなって一年ほど前の記憶を手繰り寄せた。




巡は色の番人だ。
ほとんどすべてのことについて特に秀でているということはないが、色についてだけは誰より詳しく、誰より向ける愛情も深い。そうでなければならない。それが、彼が色を守る番人たる責務だ。

あの日の夜も今日のように任務で下界に降りて居た。なんてことはない、ただ異端となった者の色のサンプルを採るだけだ。

闇に紛れて任務をさくっと終わらせ、さあ帰ろうとすると、視界の端にトンネルにスプレーで描かれたのあろう落書きが入る。放っておけばよかったのだろうが、それを放置することは彼の矜持が許さなかった。力を使っているところを誰かに見られると騒ぎになることもわかっていたし、近くに人の気配があることもわかってはいた。
それでもありったけの絵具をかきまぜたようなその色使いは巡の美的センスを逆なでするには十分すぎたのだ。
結果として巡は間違いを犯した。
彼がそれに気づいたのは、落書きに手を翳し、それを消し去った直後。背後の闇からぱちぱちと拍手が聞こえたときだった。

(さて、案の定やらかした・・・)

何時の間にか周囲にはいくつか人の気配がある。時刻はとうに日付を超えているし、ましてやトンネルの中だ。顔などみえるはずもないが、その気配のどれもが、今まで人間としては見たこともないほどの輝きを纏った色をしている。とにかくそのまま逃がしてくれそうな雰囲気ではない。闇、もしくは影と同系統の深い黒色をした気配が口を開く。

「いやあ、お見事お見事。何の道具も使わずに落書きを消してしまうなんてすごいじゃないか」

案  の  定 。
変な集団に目を付けられたようだ。しかも色の光度が常人のそれではない。此れは早く退散するべきだろう。そう思って逃走体勢に入るが、ぴくりとも体が動かない。まるで影がそこを動くことを拒否しているかのように。
「・・・知らない?色だけでなく、影を操る異能もあるんだよ」

どういうことか、と聞く間もなく、続いて跳ね回る毬のような赤い気配が話す。

「ところでアンタ・・・もしかすると"異能者"ってのなンじゃあないかい?」

異能。そう呼ばれるモノに心当たりが全くないわけではなかった。昔に神から聞いたことがある。人の子に時折宿ることがある、人智を超えた力だと。しかしながら、自分は異能者などではない。というかそれ以前に人ですらない。
だから答えた。

「いいや・・・知らないなあ。あんたらが誰かは知らないが、とりあえず俺はその異能者ってのじゃない。帰ってくれないか」

だが、彼らにとっては巡の答えなどどうでもよかったようだ。
涼やかな風のような深く浅い緑色の気配が言葉をつづける。


「えっと、その、違うのです!け、警戒しなくて大丈夫ですっ、私たちも同じ異能者ですからっ」


ちがうそうじゃない。
異能者として排除されたり蔑まれることをおそれているわけじゃあない。そもそも俺は今こそ人の形だが人じゃない。
言い返したいのだが、言葉次第ではもっと面倒なことになりそうだ。とにかく今はここから抜け出すことを最優先に考えなければならない。だがどうしたものか。

「え、えっと・・・やっぱりこんな強硬手段はいけないかなあ、なんて・・・」

と、燃え盛るような赤を内に秘めた橙色の気配。
君そんな色してそんなこと言ってるんじゃねえよ、とツッコミたい。正直ツッコミたい。が、そんな場合ではない。

「あー、えっと、だから。こういうことです、こういうこと。俺たちも貴方と同じ」


滞らず揺蕩う水の様な透明に近い青色の気配は、言うと同時にぱちんと指を鳴らす。
と、どこからか人間の頭より大きいくらいの鯉が現れ、虚空を泳ぎ始めた。
同じでたまるか。あとその鯉なんだ。
ツッコみたい。かなり突っ込みたい。が、いまだに実力行使以外でここから抜け出す方法を考えつけていないし、拘束が緩む様子もない。

「まあ、とりあえず簀巻きにして持って帰れば良いんじゃないですかー?」


そう声をあげたのは平坦な山吹色の気配。だが、数秒ごとに揺らいで何か別の色が現れるせいで直視が難しい。
というかふざけるな。仮にも神のしもべを簀巻きって。本気か君、一度考え直せ。
だが、漆黒の気配はどこか嬉しそうな色を滲ませている。本能的になにかまずいと思った。
ああ、もう知るか。あとで髪にお咎めを受けるくらい構うものか。巡は簀巻きの運命から逃れるべく手を翳し、力を解き放つ。同時に足元の影がゆらぎ、そうして崩れた。
その僅かな隙を狙い、巡は闇の中を駆けだした。


(ああ、そのあと爺さんにしこたま怒られたんだったか)
最後はたしか、全員の視角野に赤、白、黒、青、黄の色を0.01秒ごとに切り替えて送ったのだ。だというのに誰一人倒れることもしなかったのあから、やはりあの色の輝きは伊達ではなかったのだろう。
結局あの後は社に無事逃げ帰り、そして一週間ほど引きこもった。
たった一年まえのことなのに、懐かしく感じる。再び会いまみえるのは御免だが、あの色の輝きは中々見られるものではない・・・と一人感慨にふける。
賑やかに話しつつ街をゆく番人一行の通り過ぎたビルの二階にかけられた看板には「名もなき探偵社」と字がほられていた。